「うん……、ありがとう。大丈夫。ちょっとクラーッとなっただけ」「軽い熱中症かなぁ。ちょっと日陰で休憩しようか」 純也さんに支えてもらいながら、愛美は涼しい日陰へと移動した。 「――はい、これで水分補給しなよ。よく冷えてるから保冷剤代わりにもなるしね」「あ……、ありがと」 愛美は冷たいスポーツドリンクのペットボトルを受け取ると、まずは火照った首筋に当てがった。それだけで、体にこもった熱と汗がスッと引いていく。 そしてキャップを開け、ゴクゴク飲んだ。「ゴメンねー、愛美ちゃん! 目眩起こす前に、大人の俺が気づいてあげるべきだったよな」「そんなことないよ。こんな暑い日にキャッチボールしようなんて言い出したわたしが悪いんだもん。っていうか純也さん、久しぶりに『俺』って言ったよね」 水分補給をして熱も冷めた愛美は、そういう話もできるくらい元気を取り戻していた。「……えっ? あれ、そうだっけ?」「うん、そうだよー。多分、珠莉ちゃんたちと一緒に原宿に行った日以来じゃないかな」 あの日以降、純也さんは「僕」としか言わなくなっていた。愛美と二人っきりだから、彼は素(す)の自分を出せたのかもしれない。「そっか……。いや、珠莉の前ではよく『俺』って使うんだけどな。愛美ちゃんが俺に敬語なしで話せるようになったのと同じかな、理由は」 それは年の差を超えて、心が通じ合ったからなのかなと愛美は思った。「ね、純也さん。これからはもっともっと『俺』って言ってほしいな。珠莉ちゃんの前だけじゃなくて、わたしと一緒の時にも」 珠莉は彼の姪だから、いやでも素が出てしまうのかもしれない。でも、これからは〝彼女〟になった愛美にも飾らない彼自身を見せてほしい。「うん、分かった。まあ、できる限り頑張ってみるよ」「えーー? それってどっちなのー?」 愛美はブーイングしながらも、彼と一緒に過ごせる時間がすごく愛おしく感じていた。「――これ以上外にいたら、俺まで熱中症になりそうだな。もうじき昼食の時間だし、そろそろ家の中に戻ろうか。午後は屋根裏部屋で読書でもして過ごすか。愛美ちゃんの宿題を見てあげてもいいし」「残念でした。宿題はもう終わっちゃってるんで」(……っていうか、純也さんがおじさまなら知ってるはずだよね。わたしが勉強できる子だって) 内心ではそう思いながら、愛美は澄
おじさまは憶えてますか? 去年の夏休み、わたしが「この家の屋根裏部屋に野球ボールとグローブが置いてある」って手紙に書いたのを。実はそのグローブ、大小二つあったんです。 純也さんは昔、このお家に来てた頃によくキャッチボールをしてたんだそうです。相手はなんと多恵さん! 善三さんともやってたそうなんですけど。 何でも、多恵さんは学生時代、ソフトボール部に所属してたらしいんです。純也さん曰く、多恵さんも昔はスラッとしてて、スポーツ万能だったんだとか。今はあんなにふくよかな多恵さんがですよ? おじさま、信じられますか? それはともかく。今日は朝からよく晴れてたので、わたしから「キャッチボールしよう」って純也さんに言いました。 日本人メジャーリーガーの大谷翔(しょう)平(へい)選手並みの純也さんの投球をキャッチしたら、彼はすごく驚いてました。そして、わたしが投げ返した球の速さにも。「なかなかいい球投げるね」って。 〈わかば園〉にいた頃、わたしはよく弟たちの球技の練習に付き合ってあげてました。多分、それで上手くなったんじゃないかな。だからわたし、野球だけじゃなくてサッカーとかバスケットボールとか、球技全般が得意なんですよ、実は。って、おじさまはもうご存じですよね。 でも、ピーカンで暑い中ずっと屋外にいたので、わたしがちょっと具合が悪くなっちゃって。そこでキャッチボールは打ち切りになっちゃいました。 誘ったわたしの自業自得なのに、純也さんが責任感じちゃって。「大人の自分が先に気づいてあげるべきだったね」って。彼ってホントに優しい人! そんなわけで、午後からは二人で屋根裏部屋で過ごしました。読書をしたり、彼にアドバイスをもらいながら新作の小説の下書きを書いたりして。途中、一度キッチンまで下りて行った純也さんが、多恵さんがわたしのために作ってくれた冷たいスムージーを持ってきてくれました。「具合の悪い時は、ちゃんと栄養を摂った方がいいから」って。 淡いオレンジ色のスムージーは、カボチャやニンジン、パプリカなどの野菜がベースになっていて、桃やバナナなどのフルーツも入っていて、それを冷たい牛乳と氷で割ったもので、甘くてスッキリした味で飲みやすかったです。 純也さんはわたしと二人でいる時、一人称が「僕」から「俺」になります。それは珠莉ちゃんと同じように、わたしにも心を許
話は変わりますけど、わたしが「球技が得意」という話が出たので、おじさまにお伝えしたいことがあるんです。 〈わかば園〉にいる、小谷涼介君っていう男の子をおじさまはご存じですか? わたしの二つ年下で、サッカーを頑張ってる子なんですけど。 リョウちゃんはご両親から(多分、お母さんからの方がひどいのかな)のネグレクトによって施設に来た子でした。施設に来てからは元気になりましたけど、五歳で〈わかば園〉に来た時にはゴハンもちゃんと食べさせてもらってなかったのかすごくガリガリで、わたしもショックでした。 その子のご両親は、園長先生にお説教されて心を入れ替えられたそうで、何度もリョウちゃんとの面会を望んでるんですけど。リョウちゃん本人がご両親のことをものすごく恨んでるので会いたがらないんです。 そんな彼も今年中学三年生になって、進路の問題にぶち当たっているはずです。わたしがそうだったみたいに。 彼の実のご両親はこれ幸いと、引き取るって言い出すかもしれない。でも、サッカーを続けたいリョウちゃんの気持ちなんてきっと考えてくれないとわたしは思うんです。 だから、おじさまお願い。施設を訪ねる時、園長先生と一緒に彼の様子を注意深く見てあげて下さい。そして、彼が困ってたらどうか味方になってあげて下さい。そして……、これはできればですけど。彼のために、いい里親になってくれそうな親切なご夫婦を探してみてはもらえないでしょうか? リョウちゃんはわたしの大事な弟の一人です。わたしも彼のことは心配だけど、わたしにできることはこれくらいしかないから……。 長くなっちゃってごめんなさい。奨学金が受けられるかどうかの連絡はまだ来てません。そろそろだと思うんですけど……。ではおじさま、おやすみなさい。 かしこ八月十五日 午後十時過ぎ 愛美』****
――それから五日後、純也さんの休暇が終わり、彼は東京へ帰ることになった。「愛美ちゃん、この夏は一緒に過ごせて楽しかったよ。残念だけど、僕は帰らないと」 純也さんは玄関先まで見送りに出た愛美に、名残惜しそうにそう言った。「うん……。またデートしてくれるよね?」「もちろんだよ。また連絡するからね」「うん! わたしも、また連絡する。お仕事頑張ってね」 彼はこれから、また東京で忙しい日々を送ることになるのだ。恋人である自分からの連絡が、少しでも彼の癒しになってくれたら……と愛美は思う。「うん、ありがとう。愛美ちゃんも頑張って夢を叶えなよ。僕も応援してる」(そりゃそうだよね。だって、この人はそのためにわたしを……) 愛美の彼に対する疑念は、ほぼ確信に変わりつつあった。 考えてみたら、彼の言動はところどころ怪しかった。愛美はカンが鋭いので、それで「おかしい」と思わないわけがないのだ。(まだ、本人に確かめなきゃいけないことはあるんだけど……)「ありがと。……ねえ、純也さん」 気づいていないフリをしようと決めたものの、ついつい確かめてみたい衝動に駆られた愛美は思わず彼に呼びかけていた。「ん? どうしたの、愛美ちゃん?」(……ダメダメ! ここで確かめたら、わたしのせっかくの決意がムダになっちゃう!)「あ……、ううん! 何でもない」 愛美はオーバーに首を振って、どうにかごまかした。 ――こうして純也さんは帰っていき、愛美の夏休みも残りわずかとなった。 もう宿題は全部終わっているし、あとは横浜の寮に帰る準備をするだけだ。 ――そんなある昼下がり。愛美のスマホに一本の電話がかかってきた。「純也さん? ……じゃない! 学校の事務局からだ」 そういえば、奨学金の審査の結果は夏休み中に知らせてくれることになっていた。「――はい、相川です」『二年三組の相川愛美さんですね。こちらは茗桜女子大学付属高校の事務局です。申請してもらっていた奨学金の審査結果をお知らせします』「あ……、はい! お願いします」 電話をかけてきたのは、学校の事務局で奨学金を担当している男性だった。声の感じからして、四十代から五十代と思われる。
『えー、審査を行いました結果、相川さんに奨学金を給付することが決定しました』「えっ、本当ですか!? ありがとうございます!」 愛美は驚き、ホッとし、無事に審査を通してくれたことに感謝の言葉を述べた。『はい。つきましては、相川さんが今後の学習においても、優秀な成績を修められることを私どもお祈りしております。しっかり頑張って下さい。では、失礼いたします』「はい! 頑張ります。ご連絡ありがとうございました」 愛美は電話を切った後、ホッとして呟く。「よかった……」 この一ヶ月半、心穏やかではいられなかった。純也さんと一緒にいる時でさえ、いつ連絡が来るかとソワソワしていたものである。 もちろん、奨学金を受けられることが決まったからといって、それがゴールではない。この先、ずっと優秀な成績を取り続ける必要がある。――けれど、元々成績優秀な愛美にはそれほど厳しいことではない。「――あ、おじさまに報告しなきゃ! それとも、純也さんに連絡するのが先かな」 愛美は考えた。もしも純也さんと〝あしながおじさん〟が別人だったら、両方に知らせる必要があるけれど。(もし同一人物だったら、わざわざ手紙で知らせる必要はなくなるってことだよね……) 愛美も本当はそうしたい。でも、それでは彼の方が不審がるかもしれない。 だって彼は、まさか愛美が自分の秘密に気づいているとは思っていないだろうから。それに、気づいていないフリをすると決めたのに、それでは意味がないし。「とりあえず、先に純也さんに知らせて、その反応を見てからおじさまに手紙を書こう」 悩んだ末、最終的に愛美が出した結論は、これだった。 * * * * ――九月に入り、二学期が始まった。「なんかあっという間だったねー、今年の夏休みは」 二学期初日の終礼が終わり、さやかが教室を出る前に大きく伸びをした。「さやかちゃん、インターハイお疲れさま。残念だったねぇ……、せっかく頑張ってたのに」「うん……。まあ、しょうがないよ。上には上がいたってことだもん。また来年があるし、秋にも大会あるからさ」「そうだね」 ――さやかは陸上競技のインターハイで、無事に予選は突破したものの、決勝では思うように記録が伸びずに六人中五位の成績に終わったのだ。「っていうかさ愛美。ヘコんでる時に、電話で延々ノロケ話聞かされたあたしの
「まぁねー、初めて彼氏ができて、しかも初キスまでして。その喜びを誰かに聞いてほしいってのは分からなくもないんだけどさ」「うん、まぁ。――あ、あとね。奨学金受けられることになったんだ、わたし」「へぇ、そうなんだ? よかったじゃん、愛美!」「うん! もう純也さんとおじさまには報告してあるんだ」 ――愛美は長野を離れる前に、純也さん宛てにこんなメッセージを送っていた。『純也さん、嬉しい報告☆ 学校の事務局の人から連絡があって、わたし、奨学金を受けられることになったの!(*≧∀≦*) その分、学校では優秀な成績をキープしなきゃいけないけど、わたしなら大丈夫! 二学期からも頑張ります♪ もちろん、小説家になる夢もね。』 〝あしながおじさん〟にも、同じような文面の手紙を書き送った。 彼からはまだ返事が来ていないけれど、純也さんからはすぐに返信が来た。『よかったね、愛美ちゃん。おめでとう! 僕も嬉しい☆ 田中さんもきっと喜んでくれてるよ。 ただ、ちょっと淋しいとは思ってるかもしれないけどね(^_^;)』(――純也さん、心の声がダダ漏れ……) この返信を見た時、彼が〝あしながおじさん〟の正体だと確信している愛美は苦笑いしたものだ。 やっぱり、自分が愛美のためにできることが減ってしまうのは、彼としても淋しいらしい。 「――そういえば、珠莉ちゃんは夏休み、どうだったの? 治樹さんには会えた?」 寮に帰る道すがら、愛美は珠莉に訊ねてみた。「…………ええ。早めにグアムから帰国できたから、丸ノ内(まるのうち)を一人で歩いていたら、スーツ姿の治樹さんにお会いできましたの」「スーツ姿? ああ、就活か」 さやかは自分の兄の年齢を思い出して、納得した。治樹は大学四年生。ちょうど就活に追われている時期である。「にしても、お兄ちゃんがスーツ姿……。想像つかないわ」「……それはともかく! 私が話しかけたら、治樹さんも私のことを覚えていて下さって。『連絡先を交換して下さい』って言ったら、OKして下さったんですの!」 珠莉はさやかに咳払いした後、続きを一気にまくし立てた。よっぽど嬉しかったらしい。「へぇ、意外だったなぁ。お兄ちゃんが珠莉と付き合う気になったなんて。もう愛美のことはふっ切れたってことかな?」「うん、そうなんじゃないかな。治樹さんもやっと前に
「――あ、ちょっと待ってて。郵便受け見てくるから」 もしかしたら、〝あしながおじさん〟からの返事が来ているかもしれない。そう思って、愛美は自分の郵便受けを開けてみたけれど――。「来てないか……」 他に来る郵便物もないので、郵便受けの中は空っぽだった。(今更反対する理由もないから、返事を下さらないのか。それとも……) 純也としてちゃんと「返事」を送ったから、〝あしながおじさん〟の返事は必要ないと思って出さないのか……。 愛美は後者のような気がしてならなかった。 * * * *「――ねえ、珠莉ちゃん。純也さんのことで、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」 愛美は部屋に戻ると、意を決して珠莉に声をかけた。 〝訊きたいこと〟とはもちろん、純也さんのこと。彼について訊ねるなら、彼の親戚である珠莉が一番の適任者だ。「ええ、いいけれど。何ですの?」「あのね、春に純也さんが寮に遊びに来た時のことなんだけど……」 あの日からずっと、珠莉と純也さんの力関係が微妙に変わったと愛美は感じていたのだ。「わたしがインフルエンザで入院してたこと、ホントは純也さんに話してないよね? あの時は話を合わせてたみたいだけど」 「……ええ、話していないわ。だから私もあの時、おかしいなと思ったの。でも、何か事情がおありなんだと思って、とっさに話を合わせたのよ」「やっぱり……」(あの時の引っかかりの原因はコレだったんだ……) 愛美は合点がいった。あの時、彼女の様子がおかしかったのには、こういう事情があったらしい。「それでね、私はピンときて、叔父さまを問いつめましたの。『愛美さんの保護者の〝おじさま〟って、純也叔父さまのことですわよね?』って。そしたら、叔父さまは渋々ですけれどお認めになりましたわ。『どうして分かったんだ?』って」「そうだったんだ……」 珠莉は、叔父が愛美の〝あしながおじさん〟だということを知っていたのか……。「だから珠莉ちゃん、あれからわたしに協力的になったんだね。ありがと」「……愛美さんも、もしかして気づいていらっしゃるんですの? おじさまの正体に」「うん。でもね、わたしは気づいてないフリをすることにしたの。だから純也さんの方から打ち明けてくれるまで、わたしからは訊かない」 彼は愛美を欺(あざむ)いていることを心苦しいと思っているだろう
「叔父さまは、本当に分かってらっしゃらないのかしら? 愛美さんに正体を見破られていること」「多分……ね。気づかないフリができるほど器用な人じゃないもん」 姪の珠莉よりも、恋人である愛美の方が彼の性格を熟知しているというのもおかしな話だけれど――。「――それにしても、さやかちゃんは大変だね。二学期始まって早々、部活なんて。お昼ゴハンに間に合うように帰ってくるとは言ってたけど」 今この場に、さやかはいない。彼女が所属する陸上部はインターハイの反省会をやっているのだそう。 ミーティングだけなので練習があるわけではないけれど、二学期初日に集まらなければならないのは確かに大変である。「その点、私たち文化部はいいですわよね。基本的に自由参加ですもの」「うん」 文芸部も茶道部も一応、今日も活動はしているのだけれど。参加しているのはごく一部の部員だけだろう。「……そういえば珠莉ちゃん。さやかちゃんにも話したの? 純也さんが、わたしの保護者の〝あしながおじさん〟だってこと」「ええ、早い段階でお話ししてあるわ。でも、愛美さんご自身が気づかれるまでヒミツにしていましょうね、ということになったのよ」「そうだったんだ……」 愛美は何だか、自分一人だけがのけ者にされたような気持ちになったけれど。それはきっと、親友二人の愛美への思いやり。彼女と純也さんの恋をそっと見守っていようという気遣いだったんだろう。「――あ、もうすぐお昼のチャイム鳴るね。さやかちゃん、そろそろ帰ってくるかな」 キーンコーンカーンコーン ……「ただいま! お腹すいたぁ! 二人とも、食堂行こう」 十二時のチャイムが鳴るのと、さやかが空腹を訴えながら部屋に飛び込んでくるのはほぼ同時だった――。 * * * * それから一ヶ月。愛美たちの学校では体育祭や球技大会、文化祭などの大きな行事も終わり、二学期の中間テストを間近に控えていた。 そんなある日のこと――。『――恐れ入ります。こちらは明(みょう)見(けん)社(しゃ)文芸部の、〈イマジン〉編集部でございますが。相川愛美さんの携帯で間違いありませんでしょうか?』 休日の午後、さやかと珠莉と三人で、部屋でテスト勉強に励んでいた愛美のスマホに一本の電話がかかってきた。「はい、相川ですけど。……ちょっとゴメン! 外すね」 愛美は電話に応対
* * * * というわけで、卒業式前の連休――というか厳密に言えば自由登校期間だけれど――の初日、二泊三日分の荷物を携えた愛美とさやかはJR長野駅の前に立っていた。「――愛美、あたしの分まで交通費全額出してもらっちゃって悪いね。でもよかったの?」「いいのいいの! わたし今、口座に大金入ってるから。ひとりじゃ使いきれないし、使い道も分かんないし」 冬休みに突然舞い込んできた二百万円というお金は、まだギリギリ高校生でしかも施設育ちの愛美にとってはとんでもない大金だった。作家として原稿料も振り込まれてくるけれど、さすがに百万円単位はケタが違う。印税でも入ってこない限り、そんな金額は目にすることがないと思っていた。「そっか、ありがとね」 多分、さやかもそんな大金はあまり見ないんじゃないだろうか。 そして、愛美に自分の分まで交通費を負担してもらったことを申し訳なく感じているだろうから、後で「立て替えてもらった分、返すよ」と言ってくるに違いない。その分を受け取るべきかどうか、愛美は迷っていた。 さやかの顔を立てるなら、素直に受け取るべきだろうけれど。愛美としては貸しにしているつもりはないので、返してもらうのも何か違う気がしているのだ。 それはきっと、もっと大きな金額を愛美に投資してくれている〝あしながおじさん〟=純也さんも同じなんだろうと愛美は思うのだけれど……。「――農園主の善三さんの車、もうすぐこっちに来るって。奥さんの多恵さんからメッセージ来てるよ」「そっか」 スマホに届いたメッセージを見せた愛美にさやかが頷いていると、二人の目の前に千藤農園の白いミニバンが停まった。助手席から多恵さんが降りてくる。「愛美ちゃん、お待たせしちゃってごめんなさいねぇ。――あら、そちらが電話で言ってたお友だちね?」「はい。牧村さやかちゃんです」「初めまして。愛美の大親友の牧村さやかです。今日から三日間、お世話になります」 さやかが礼儀正しく挨拶をすると、多恵さんはニコニコ笑いながら「こちらこそよろしく」と挨拶を返してくれた。「静かな場所で過ごしたくて、ここに来たいって言ったそうだけど、ウチもまあまあ賑やかよ。だからあまり落ち着かないかもしれないわねぇ」「いえいえ! 寮の食堂に比べたら全然静かだと思います。ね、愛美?」「うん、そうだね。多恵さん、ウ
――今年の学年末テストもバレンタインデーも終わり、卒業式が間近に迫った三月初旬。さやかが思いがけないことを愛美に言った。「卒業式前の連休、あたしも一緒に長野の千藤農園に行きたいな。愛美、執筆の息抜きに行きたいって言ってたじゃん」「えっ、わたしは別に構わないけど……。さやかちゃん、急にどうしたの?」 部屋の勉強スペースで執筆をしていた愛美は、キーボードを叩いていた手を止めて小首を傾げた。彼女が「千藤農園へ行きたい」なんて言ったことは今まで一度もなかったから。「いやぁ、愛美がいいところだって言ってたし、あたしも前から一度は行ってみたいと思ってたんだよね。純也さんのお母さん代わりだったっていう人にも会ってみたかったしさ。っていうかぶっちゃけ、最近食堂がうるさくてストレスなんだわ」「あー……、確かに。会話もままならない感じだもんね」 さやかも言ったとおり、最近〈双葉寮〉の食堂では特に夕食の時間、みんなが一斉におしゃべりをする声が大きくこだましてやかましいくらいである。隣り同士や向かい合って座っていても、話す時には手でメガホンを作って「おーい!」とやらなければ聞こえないのだ。そりゃあストレスにもなるだろう。「分かった、わたしから連絡取ってみるよ。この時期だと……、農園では夏野菜の苗を植え始めたりとかでちょっとずつ忙しくなるだろうから、一緒にお手伝いしようね。あと、純也さんと二人で行った場所とかも案内してあげる」「やった、ありがと! 野菜育てるお手伝いなら、ウチもおばあちゃんが家庭菜園やってるからあたしもよくやってたよ。じゃあ、連絡よろしくね」「うん」 愛美のスマホには、千藤農園の電話番号はもちろん多恵さんの携帯電話の番号も登録してある。愛美から連絡したら、多恵さんはびっくりしながらも喜んでくれるだろう。ましてや、今回は一人ではなく友だちも一人連れていくんだと言ったら、大喜びで歓迎してくれるだろう。「じゃあ、原稿がキリのいいところまで書けたら、さっそく多恵さんに電話してみよう」 という言葉どおり、愛美は執筆がひと段落ついたところで多恵さんの携帯に電話した。
* * * * 部活も引退したことで執筆時間を確保できるようになった愛美は、本格的に新作の執筆に取りかかることができるようになった。「――愛美、まだ書くの? あたしたち先に寝るよー」 〝十時消灯〟という寮の規則が廃止されたので、入浴後に勉強スペースの机にかじりついて一心不乱にノートパソコンのキーボードを叩き続けていた愛美に、さやかがあくび交じりに声をかけた。横では珠莉があくびを噛み殺している。「うん、もうちょっとだけ。電気はわたしが消しとくから、二人は先に寝てて」 本当に書きたいものを書く時、作家の筆は信じられないくらい乗るらしい。愛美もまさにそんな状態だった。「分かった。でも、明日も学校あるんだからあんまり夜ふかししないようにね。じゃあおやすみー」「夜ふかしは美容によろしくなくてよ。それじゃ、おやすみなさい」 親友らしく、気遣う口調で愛美に釘を刺してから、さやかと珠莉はそれぞれ寝室へ引っ込んでいった。「うん、おやすみ。――さて、今晩はあともうひと頑張り」 愛美は再びパソコンの画面に向き直り、タイピングを再開した。それから三十分ほど執筆を続け、キリのいいところまで書き終えたところで、タイピングの手を止めた。「……よし、今日はここまでで終わり。わたしも寝よう……」 勉強部屋の灯りを消し、寝室へスマホを持ち込んだ愛美は純也さんにメッセージを送った。 『部活も引退したので、今日からガッツリ新作の執筆始めました。 今度こそ、わたしの渾身の一作! 出版されたらぜひ純也さんにも読んでほしいです。 じゃあ、おやすみなさい』 送信するとすぐに既読がついて、返信が来た。『執筆ごくろうさま。 君の渾身の一作、俺もぜひ読んでみたいな。楽しみに待ってるよ。 でも、まだ学校の勉強もあるし、無理はしないように。 愛美ちゃん、おやすみ』「……純也さん、これって保護者としてのコメント? それとも恋人としてわたしのこと心配してくれてるの?」 愛美は思わずひとり首を傾げたけれど、どちらにしても、彼が愛美のことを気にかけてくれていることに違いはないので、「まあ、どっちでもいいや」と独りごちたのだった。 高校卒業まであと約二ヶ月。その間に、この小説の執筆はどこまで進められるだろう――?
――そして、高校生活最後の学期となる三学期が始まった。「――はい。じゃあ、今年度の短編小説コンテスト、大賞は二年生の村(むら)瀬(せ)あゆみさんの作品に決定ということで。以上で選考会を終わります。みんな、お疲れさまでした」 愛美は部長として、またこのコンテストの選考委員長として、ホワイトボードに書かれた最終候補作品のタイトルの横に赤の水性マーカーで丸印をつけてから言った。 (これでわたしも引退か……) 二年前にこのコンテストで大賞をもらい、当時の部長にスカウトされて二年生に親友してから入部したこの文芸部で、愛美はこの一年間部長を務めることになった。でも、プロの作家になれたのも、あの大賞受賞があってこそだと今なら思える。この部にはいい思い出しか残っていない。 ……と、愛美がしみじみ感慨にふけっていると――。「愛美先輩、今日まで部長、お疲れさまでした!」 労(ねぎら)いの言葉と共に、二年生の和田原絵梨奈から大きな花束が差し出された。見れば、他の三年生の部員たちもそれぞれ後輩から花束を受け取っている。 これはサプライズの引退セレモニーなんだと、愛美はそれでやっと気がついた。「わぁ、キレイなお花……。ありがとう、絵梨奈ちゃん! みんなも!」「愛美先輩とは同じ日に入部しましたけど、先輩は私にいつも親切にして下さいましたよね。だから、今度は私が愛美先輩みたいに後輩のみんなに親切にしていこうと思います。部長として」「えっ? ホントに絵梨奈ちゃん、わたしの後任で部長やってくれるの?」 いちばん親しくしていた後輩からの部長就任宣言に、愛美の声は思わず上ずった。「はい。ただ、正直私自身も務まる自信ありませんし、頼りないかもしれないので……。大学に上がってからも、時々先輩からアドバイスを頂いてもいいですか?」「もちろんだよ。わたしも部長就任を引き受けた時は『わたしに務まるのかな』ってあんまり自信なくて、後藤先輩とか、その前の北原部長に相談しながらどうにかやってきたの。だから絵梨奈ちゃんも、いつでも相談しに来てね。大歓迎だから」 「ホントですか!? ありがとうございます! でもいいのかなぁ? 愛美先輩はプロの作家先生だから、執筆のお仕事もあるでしょう?」「大丈夫だよ。むしろ、執筆にかかりっきりになる方が息が詰まりそうだから。絵梨奈ちゃんとおしゃべりして
それはともかく、わたしは園長先生から両親のお墓の場所を教えてもらって、クリスマス会の翌日、園長先生と二人でお墓参りに行ってきました。〈わかば園〉で聡美園長先生たちによくして頂いたこと、そのおかげで今横浜の全寮制の女子校に通ってること、そしてプロの作家になれたことを天国にいる両親にやっと報告できて、すごく嬉しかったです。 園長先生はさっそくわたしが寄付したお金を役立てて下さって、今年のクリスマス会のごちそうとケーキをグレードアップさせて下さいました。おかげで園の弟妹たちは大喜びしてくれました。まあ、ここのゴハンだって元々そんなにお粗末じゃなかったですけどね。 そしておじさま、今年もこの施設の子供たちのためにクリスマスプレゼントをドッサリ用意して下さってありがとう。もちろん、おじさまだけがお金を出して下さったわけじゃないでしょうけど。名前は出さなくても、わたしにはちゃんと分かってますから。 お正月には、施設のみんなで近くにある小さな神社へ初詣に行ってきました。やっぱりおみくじはなかったけど……。 もうすぐ三学期が始まるので、また寮に帰らないといけないのが名残惜しいです。やっぱり〈わかば園〉はわたしにとって実家でした。三年近く離れて戻ってきたら、ここで暮らしてた頃より居心地よく感じました。 三学期が始まったら、文芸部の短編小説コンテストの選考作業をもって文芸部部長も引退。そして卒業の日を待つのみです。わたしはその間に、〈わかば園〉を舞台にした新作の執筆に入ります。今度こそ出版まで漕ぎつけられるよう、そしておじさまやみんなにに読んでもらえるよう頑張って書きます! ここにいる間にもうプロットはでき上って、担当編集者さんにもメールでOKをもらってます。 では、残り少ない高校生活を楽しく有意義に過ごそうと思います。 かしこ一月六日 愛美』****
****『拝啓、あしながおじさん。 新年あけましておめでとうございます。おじさまはこの年末年始、どんなふうに過ごしてましたか? わたしは今年の冬休み、予定どおり山梨の〈わかば園〉で過ごしてます。新作の取材もしつつ、弟妹たちと一緒に遊んだり、勉強を見てあげたり。 施設にはリョウちゃん(今は藤(ふじ)井(い)涼介くん)も帰ってきてます。新しいお家に引き取られてからも、夏休みと冬休みには帰ってきてるんだそうです。向こうのご両親が「いいよ」って言ってくれてるらしくて。ホント、いい人たちに引き取ってもらえたなぁって思います。おじさま、ありがとう! お願いしててよかった! リョウちゃんは今、静岡のサッカーの強豪高校に通ってて、三年前よりサッカーの腕前もかなり上達してました。体つきも逞しくなってるけど、あの無邪気な笑顔は全然変わってなかった。「やっぱりリョウちゃんだ!」ってわたしも懐かしくなりました。 そして、わたしが今回いちばん知りたかったこと――両親がどうして死んでしまったのかも、聡美園長先生から話を聞かせてもらえました。 わたしの両親は十六年前の十二月、航空機の墜落事故で犠牲になってたんです。で、両親は事故が起きる二日前に、小学校時代の恩師だった聡美園長にまだ幼かったわたしを預けたらしいんです。親戚の法事に、どうしてもわたしを連れていけないから、って。でも、それが最後になっちゃったそうで……。 幸いにも両親の遺体は状態がよかったから、園長先生が身元
「わたしが作家になれたのも、その人のおかげなんだよ。だから、わたしも感謝してるの」「そっか。うん、めちゃめちゃいい人だよな。で、姉ちゃん。さっき言ってた『新作のための取材』ってどういうこと?」「あのね、新作はここを舞台にして書くつもりなの。ここにいた頃のわたしを主人公のモデルにして。……この施設がわたしの、作家としての原点だと思ってるから」 もし両親が生きていて、この施設で暮らすことがなかったとしたら、愛美は果たして「作家になりたい」という夢を抱いていただろうか……? そう思うと、やっぱり愛美の作家としての原点はここなのだと愛美は思うのだった。「オレも久しぶりに愛美姉ちゃんと過ごせて嬉しいよ。静岡に行って、高校に上がってから夏休みにもここに帰ってきてたけど、姉ちゃんがいないと淋しかったからさ。また一緒にサッカーの練習、付き合ってよ」「いいよ。でもリョウちゃん、サッカー上手くなってるからついて行けるかな……」 三年近く会っていない間に、彼のサッカーはグンと上達している。サッカーの強豪校に進学させてもらったからでもあると思うけれど、今の涼介に愛美はついて行けるかちょっと不安だ。「大丈夫だよ、一緒にボールを追いかけられるだけでオレは楽しいから」「そっか」 いちばん年齢の近かった涼介と再会できただけで、愛美はここを離れていた三年間という時間がまた巻き戻ったような気持ちになった。 * * * * その夜、〈わかば園〉では施設を卒業した愛美と涼介も参加してのクリスマス会が行われた。 今年のクリスマス会は、早速愛美が寄付したお金も使われたのか例年に増してケーキもごちそうも豪華になっていて、子供たちも大喜びだった。 そして、例年どおり〝あしながおじさん〟=田中太郎氏=純也さんを含む理事会から子供たちへのクリスマスプレゼントもどっさり用意されていて、「そうそう、これがここのクリスマスだったなぁ」と懐かしくなった。
* * * * 愛美は宿舎へ向かう前に、庭の方を通りかかった。サッカー少年の涼介が、今日もここでサッカーの練習をしているような気が下から。 今もこの施設に暮らす男の子たちに混ざって、高校生くらいの少年が一人、サッカーボールを追いかけながら走っている。愛美は彼の顔に、自分がよく知っている少年の面影を見た。「――あっ、やっぱりいた! お~い、リョウちゃーん!」 手を振りながら呼びかけると、驚きながらも手を振り返してくれた少年――小谷涼介は、身長が少し伸びて筋肉もついているけれど、顔は三年前とほとんど変わっていない。「愛美姉ちゃん! 久しぶり……っていうかなんでここに? ――あ、ちょっとごめん! お前ら、今日の練習はここまで。もうすぐ晩メシだから、ちゃんと手洗えよ!」 子供たちのコーチをしていたらしい涼介は、泥まみれになっている彼らに練習の終了を告げた。三年近くここに帰ってこない間に、彼もすっかり〝お兄さん〟になっていた。「リョウちゃん、元気そうだね。わたしもね、今年の冬休みの間はここで過ごすことにしたんだよ。新作のための取材も兼ねてるんだけど」「そっか。そういや愛美姉ちゃん、作家になったんだよな。おめでと。オレも本買ったよ。義父(とう)さんも義母(かあ)さんも、『この本は施設にいた頃のお姉ちゃんが書いたんだ』ってオレが言ったら二人とも買ってくれてさ。ウチにはあの本が三冊もあるんだぜ」「そうなんだ? リョウちゃん、すっかり新しいお家に馴染んでるみたいだね。よかった」 自分が〝あしながおじさん〟=純也さんにお願いして見つけてもらった涼介の養父母。彼がその家に馴染んでいるか、愛美はずっと心配だったけれど、彼の口ぶりからしてすっかり気に入っているようでホッとした。「うん。二人とも、オレにすごくよくしてくれてるよ。園長先生から聞いたんだけど、愛美姉ちゃんが理事の人に頼み込んで見つけてくれたんだよな? 姉ちゃん、ありがとな」「ううん、わたしはただお願いしただけで、実際に動いてくれたのはその理事の人だよ。わたしの時にも手を差し伸べてくれたから、リョウちゃんのことも何とかしてくれるかな……と思ってダメもとでお願いしたら、ちゃんとしてくれて。ホント、いい人でしょ?」 彼はお金を出してくれて終わりではなく、常に相手にとって最善の方法を見つけてくれる。 愛
愛美の答えを聞いた園長は、困ったような笑みを浮かべた。「……実はね、愛美ちゃん。辺唐院さんも今月の第一水曜日にここへいらした時、私におっしゃってたのよ。『どうやら彼女は、僕の正体に気づいているみたいです』って。あなたは頭のいい子だから、いずれはこうなると思ってらっしゃったみたいで。もしかしたら、あなたに本当のことを打ち明けるタイミングを計りかねている感じだったわ」「そう……なんですか? だとしたら、彼はいつごろわたしに打ち明けてくれるつもりなんだろう……?」 彼がタイミングを計っていることは間違いないだろうけれど。打ち明けると愛美と気まずくなるのを恐れて、なかなか打ち明けられないというのもあるのかもしれない。「――とにかく、今日から二週間はあなたも実家に帰ってきたつもりで、ここでお過ごしなさい。ちゃんと取材には応じてあげるから。あとは子供たちの相手をしてくれたり、事務作業を手伝ってくれると助かるけれど。それはあくまであなたの意思に任せるわね」「はい」「あなたはまた六号室で寝泊まりしてもらおうかしらね。みんな、愛美お姉ちゃんと一緒に寝るのを楽しみにしてるから」「分かりました。六号室かぁ……、懐かしいなぁ」 愛美はここを巣立っていくまでずっと、六号室で五人の幼い弟妹たちと過ごしていたのだ。あれから三年近く経って、あの子たちも大きくなったことだろう。幼稚園の年長組だった子も、小学三年生になっているはずだ。「あ、あとね、涼介君も今、施設に帰ってきてるのよ。引き取られた先のご両親が、夏休みと冬休みにはここに帰ってきてもいいっておっしゃったらしくて」「えっ、リョウちゃんも? 嬉しいな」「ええ。今夜はクリスマス会をやるから、愛美ちゃんも参加してね。涼介君も参加したいって言ってたから。お正月にはみんなでまた近くの神社へ初詣に行きましょうね」「はい!」 まるで自分の祖母のような園長とのやり取りで、愛美はあっという間に三年前に引き戻されたような懐かしい気持ちになった。このアットホームな雰囲気が、この園での生活が楽しいと感じたいちばんの理由だった。「――そういえば、その服の感じも懐かしいわね。愛美ちゃん、ここにいた頃もよくブルーのギンガムチェックの服を着てた憶えがあるわ」 園長はふと、愛美が着ているブルーのギンガムチェックのシャツを眺めて目を細める。ボト